にじいろ日誌

NPO法人『にじいろ学校』の活動報告ブログです!

5月3日開催「Aro/Aceの活動を語る会議事録」

参加した登壇者プロフィール

【今徳はる香】
NPO法人にじいろ学校代表、2015年からAro/Aceに関する交流会を行なっている。

お話できること

NPO法人の設立、運営について(2016年から活動)

・交流会開催について(2015年から開催、約80回)

・ドラマ監修について(NHK「恋せぬふたり」テレ東「今夜すきやきだよ」)

・レインボープライド参加について(東京 パレードフロート出展4回、ブース出展3回、大阪、名古屋、札幌ブース出展)

・学生さんのインタビューについて(論文やゼミの発表用で過去50回ほど)

 

【中村健(なかけん)】

アセクシュアルXジェンダー当事者。2015年からAro/Aceに関する活動を始め、2017年よりYoutubeやメディアでの発信活動を行う。2018年からは、Aro/Aceや多様な性に関する講演活動も行う。また、セクシュアリティ別交流会「なかぷろ」では、アセクシュアル当事者向けの交流会も定期的に行い、累計150名以上の参加があった。

 

【三宅大二郎】

As Loopメンバー(Aro/Ace調査代表者)、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程(修士:人間科学)。Aro/Aceに関する研究を行っている。大学におけるLGBTQの学生支援に携わり、行政が主催するLGBTQの居場所づくり事業に関わるほか、SOGIに関する講演活動なども行う。

論文:

・三宅大二郎&平森大(2021)「日本におけるアロマンティック/アセクシュアルスペクトラムの人口学的多様性――「Aro/Ace調査2020」の分析結果から」.『人口問題研究』.77(2). 206-232

三宅大二郎・平森大規(2023)「日本のアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムにおける恋愛的指向の多面性 」『ジェンダー&セクシュアリティ』18.1-25.

 

 

以下は参加者様にいただいた質問への回答です。

回答は登壇者同士のディスカッションの内容をまとめたものであり、「正答」を提示する意図はございません。
今後のAro/Aceの活動を考える一つの参考として、ご参照いただければ幸いです。

 

 

質疑応答

Q.なぜ、Aro/Aceの交流会を、他のLGBTQコミュニティと分けて行っているのですか?


A.他のLGBTQのコミュニティでは恋愛トークが多かったり、パートナー探しなどの出会い目的の方が多かったりするという声も聞きます。それらは、異性愛中心の社会の中でコミュニティだからこそできる会話という面もありますし、パートナー探し自体は人によってはAro/Ace当事者でも関心があるところかと思いますが、ニーズやその場で求められる配慮が異なる部分があるのも事実です。その点で、Aro/Ace向けの交流会を開く必要性があると感じています。一方で、Aro/Aceを含むLGBTQ/性的マイノリティが集まる場もとても重要だと思います。Aro/Aceコミュニティには、当然のことながらトランスジェンダーXジェンダー、ノンバイナリーを自認している人もいますし、レズビアンやゲイ、バイロマンティック/バイセクシュアル、パンロマンティック/パンセクシュアルなどのカテゴリーを自認している人もいます。Aro/Aceは他のコミュニティとニーズが異なる部分もありますが、繋がっている部分もとても多いのです。

 

Q.メディアでAro/Aceを取りあげられはじめた当初、困ったことは何ですか?

A.2015年当時、言葉の定義などの情報がまとまっておらず、現在以上に幅広いものでした。そして、情報はインターネットの掲示板などに偏っていました。英語圏から来た言葉なので、どのように翻訳するのか、どの用語を使用するのか、常に迷いがありました。そこで、「私はこういう意味で使っています」という補足をつけて話すようになりました。また、媒体によって発信内容が都度異なるということがないよう、As Loop(アズループ)の前身の団体ができる頃からは、As Loopメンバーの3名は少なくとも発信の際に定義をそろえることにしました。

 

Q.なぜ、Aro/Aceの調査・研究を行うようになったのですか?


A.Aro/Aceの情報発信をする際に、できるだけ多くの方の声を届けられるようにすることが重要だと考えており、その一つの方法として調査を選びました。また、私たちが行っている「Aro/Ace調査」の目的で示しているように、①Aro/Aceの可視化、②多様性を議論するための材料づくり、③研究や活動の促進、という意味もあります。

 

Q.アセクシュアルの定義をどのように考えたのですか?


A.調査上では、アセクシュアルを定義していません。それぞれの自認に委ねたいからです。一方で、アセクシュアルを「他の人に性的に惹かれない」として捉えた際に、「性的に惹かれない」ということはどういうことか議論する材料が欲しいと思ってました。その点で、「性的に惹かれない=他の人のことを性的な意味で魅力的に感じない」という解釈だけでなく、より広い解釈をしてもいいのではないかと考えていました。そこで、調査では、「性的に惹かれない」ことを「他の人のことを性的な意味で魅力的に感じない and/or 性的な意味で魅力を感じた人と性行為をしたいと思わない」としました。

 

Q.今後は、どのような活動をしたいと考えていますか?または今後の課題として考えていることを教えてください。


A.これまで、自認に迷う方やAro/Aceについて話せる場がないことに悩む方がいることから、交流会を行ってきました。最近は、それに加えて、どのように生きていくかなどの課題の解決も視野に、ライフプランを考える会を行うようになりました。その他の課題としては、Aro/Aceに関する悩みに対応できる相談窓口が不足していることが挙げられます。Aro/Aceに関する相談に対応できるカウンセラーや相談員を増やし、相談窓口を充実させていく必要があります。加えて、Aro/Aceに関する情報が得られるリソースが限られているため、書籍など、まとまった情報が手に入りやすいようにしたいです。

 

Q.Aro/Aceに関係する論文を、大学で書きたいと考えていますが、どのように研究したほうがいいかわかりません。


A.研究方法については、基本的に指導教員に相談しながら決めることにはなるとは思いますが、Aro/Aceに関する研究に関心がある人のためのネットワークが英語圏にはあります。そのような取り組みを今後検討したいと思います。

 

Q.取材を今後受けようか迷っています。メディアと関わる際の注意点を教えて下さい。


A.まずはその取材を受けたいのか否かを考えてみるのはいかがでしょうか。当然のことながら断って構いません。もし受ける場合は、公開される前に文章なら原稿、映像なら自身が話している箇所を見せてもらうことは出来ないかなどを、事前に担当者に確認・相談することが大事かなと思います。そして、少しでも不安などがあれば、たとえ一度引き受けたとしてもいつでも「断る」選択肢を持っておくことが重要です。また、最終的には担当者の人柄というか、人として信頼できるかというところが判断基準になってくると思います。

Q.アンチや批判への対応


A.まずその「批判」が活動の改善に関わる適切な批判なのか、それとも誹謗中傷なのかという判断をすることが重要です。

誹謗中傷(明らかなからかいや悪口、個人に対する攻撃など)については基本スルーをして、もしあまりに悪質なようであれば法的な措置を取ることも有効でしょう。但し、法的な手続き等は精神的な負担も大きいため、誹謗中傷についてはスルーをする、もしくは信頼して話せる身近な人や、LGBTQに関する相談窓口に相談する形で対処するのがおすすめです。

適切な批判(こちらに改善の余地がある場合)については「改善点を教えていただいた」という姿勢で受け取ることを勧めます。
適切な批判は大切な意見の一つでもあるため、直せるところは直しつつ、難しい場合は今後の検討事項として記録をしたり、難しい旨を伝えることがよいかと思います。

さまざまな批判に精神的に辛くなることもあるかもしれません。
誰にでも意見や批判をする権利はありますが、批判された側がそれを受け取らないという権利も、怒ったりする権利も持っているはずです。
※当然ですが、差別的な発言や不適切な対応をしてしまった場合は、こちらの意志にかかわらず、真摯に向き合い説明や改善をする責任があります。

中には、心無いコメントで活動から離れてしまう人もいます。
そのため、上記のような方法で批判とうまく付き合いながら、それでも活動するのが難しくなった際には、続ける/やめるの2択だけではなく「休む」という選択肢もあることを頭に入れておいていただければ幸いです。

「自分がやりたいからやってる、嫌になったら休む、やめる」という考え方で良いのではと思います。


Q.Aro/Aceの作品について


→前提として、「全ての人に賞賛される作品を作ることは不可能である」ということを念頭におくと良いかと思います。設定として出した場合でも、出さない場合でもその選択を良いと思う人もいれば、良くないと感じる人もいます。
重要なのは「どの層に何を届けたいか」だと考えます。

これまでいくつかの作品を見て感じる部分として、

設定を出すメリット:コミュニティに届きやすくなる
設定を出すデメリット:説明や描き方、キャラ設定などを丁寧に作り込む必要がある。

設定を出さないメリット:Aro/Aceに関する設定を細かく作り込まなくても、当事者かどうかは不明なため、偏見を流布することには繋がりにくい、
設定を出さないデメリット:Aro/AceコミュニティにAro/Aceの作品としては届かない、さりげなく描いたとしてもAro/Aceのキャラクターや作品として認知されない可能性が高い

といったことがあげられるかと思います。

上記も参考にしていただきながら、作品において何を大切にしたいかで判断していただければ幸いです。

 

  • 気をつけること

→作品にする場合、偏ったイメージ(ステレオタイプ)を流布する懸念が生まれるため、「あくまでこの作品の描写は一例であり、Aro/Ace全体に当てはまるわけではない」ということを入念に伝えることをおすすめします。
可能な限り幅広い当事者像を描くことが理想ではありますが、1作品で扱えるAro/Aceの多様性は限界があるため、できる限り幅広く描く工夫をしたら、あとはその作品が描きたい内容に集中することが重要だと思います。
さまざまなAro/Ace当事者がいるということが伝わるためにも、今後Aro/Aceに関する作品が増えていくことを願っています。

※但し、使用すべきではない表現(「恋愛できない」といった可否を表す表現など)もあるため、そちらはぜひ調査報告をご確認ください。

 

  • 我々が恋せぬふたりで気を付けたこと

NHKの許可も必要な内容のため、

NHKよるドラ「恋せぬふたり」 - As Loop(アズループ)

をご覧ください。

 

  • 今夜すきやきで気を付けたこと


→個人的に一番気をつけたのはカミングアウトのシーンでした。他のセクシュアリティと比べてAro/Aceのカミングアウトは「直接的な差別発言などは受けなそう」「伝えるハードルは高くなさそう」と思われることも多いです。そのため、簡単に周囲にカミングアウトができるという印象にならないよう、タイミングや言い出し方などを何度も調整していただきました。

 

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